「温泉に泊まる」というとたいてい思い浮かべるのが、湯上がりの浴衣姿で大広間に数十名が集まり、ひとり用の御膳の前でビールのグラスを持ち上げて全員声を揃えて「カンパーイ!」という風景だ。いまだかつてこういう「ザ・温泉」という場面に居合わせたことは一度もないのにはっきりと思い描けるのは、テレビCMの影響大と言わざるを得ない。日々孤独にパソコンと向き合う地味な生活を送っているので、大人数でワイワイと温泉旅行を楽しめる人々がちょっとうらやましい。
今回登別温泉にカンヅメになったのも仕事の一環だったから、当然「御膳を前に浴衣でカンパーイ」という食事にありつくことはできなかった。実際、仕事が終わって夕食でも、と温泉街を歩いてみても食事ができそうなところはほとんどない。宿泊しているホテルでさえ「ご予約がないとお食事はお出しできません」と気の毒そうに断られた。そりゃそうだ。温泉の宿泊客というのは温泉と食事をセットで楽しみにしてやってくるのだから、食に関してはホテル内で完結するのが当然なのだ。
というわけで出かけたのが、登別温泉からクルマで15分ほど、幌別駅のすぐそばにある「鳥彦」というお店。
今回の仕事のお客様が幌別在住で、「おいしい店があるから」と誘ってくださった。細い路地裏の赤提灯を目当てに、引き戸を開けるとそこはふつうの居酒屋。だがこういう店こそ意外な実力を秘めているものなのだ。
とりあえずビール。
金色に輝くビールとクリーミーで繊細な泡とのバランスが絶妙で、じつにおいしい。ビールサーバーを毎日きちんと洗浄して、注ぎ方にも細心の注意を払っているのが伺える。失礼を承知で言うが、こんなところでこんな素晴らしいビールに出会えるとはまったく予想外であった。
続々と焼鳥が焼き上がる。
登別は室蘭焼鳥の流れを汲んでいるそうで、タレの豚精肉にカラシをつけて食べるスタイルが主流なのだそう。今回は塩とタレを食べ比べてみました。
タレの味が独特。甘辛醤油味がベースなのだがすっきりしていて甘すぎず、後味がさらっとしている。大きさもほどよく、肉で口の中がいっぱいになってしまうこともない。
室蘭焼鳥の「焼鳥」といえば豚のことなので、鶏肉が食べたいときは「トリ」と申告しなければならない。これまたふっくらジューシーで美味。
つくねはまるでみたらしだんごと見まごうほどにつやつやと美しく、これまたおいしゅうございました。
このほか数種の焼鳥と筍の土佐煮、モツ煮込みなどもいただき、最後は焼きおにぎりで〆。
男3人・女1人おなかいっぱい食べて飲んで、御会計はひとり3,000円にも満たず。や、安い! なんたって焼鳥1本100円からという価格設定なのだから、札幌では考えられない安さだ。
現在お店を切り盛りしているのは二代目の若夫婦。焼酎の勉強にも余念がなく、札幌でもなかなかお目にかかれない銘柄がさりげなく置いてあったりする。地方でこんなふうに頑張っているお店に出会うと、北海道はまだまだ頑張れるぞ、と力をもらった気分になる。いやあいい店でした。Oさんありがとうございました。
● 鳥彦
登別市中央町1-2-1
0143-85-4986
登別温泉からはちょっと離れています。クルマでお越しの方はソフトドリンクをどうぞ。
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