ついに来ましたね、冬。クルマの運転はおろか、外に出るのもイヤになる寒がりの私だが、しばらくぶりにこだわってない食堂の醤油ラーメンが食べたくなった。そこで外出ついでに少し前にもコラムで紹介した食堂「味富」ののれんをいそいそとくぐったわけだ。「醤油ラーメン」と注文し、心おだやかにカウンターに座って写りの悪いアナログテレビに目をやり、ワイドショーが興奮気味に語る海老蔵問題についてつらつらと考えたりしていたわけだ。するとガラリと引き戸が開き、女性1名(推定年齢53歳)ご来店。どうやら顔なじみらしく、オヤジは「おうコンニチワ! どれでもできるよ」と言った。
そりゃあ自分でメニューを書いておいて「できません」ってのはないだろうよ、とココロのツッコミをしていると、53歳(仮)女性は「うーん…塩ラーメン大盛り」と言った。
前にも書いたが、味富はラーメンも焼きそばも天丼もみーんな¥500。それでいて通常の1.5倍はありそな盛りの良さ。ここで大盛りラーメンといえば確実に2玉以上入っている巨大さだ。それを知らずに大盛りラーメンを頼んでしまってなかなか食べきれず、やっとの思いで完食したものの待ち合わせに遅刻したという人物を私は知っている。自慢じゃないが私も女としてはよく食べるほうだが、さすがにラーメン大盛りというのはいまだかつて食べたことがない。この53歳(仮)女性、はたして大盛りの実態を知っているのだろうか。
海老蔵問題と大盛り問題にやや心を乱されているうちに、醤油ラーメン到着。ホラホラ、普通盛りでもこんなに量が多いんだよ? 隣でチラチラと私のラーメンを見ている53歳(仮)女性にココロの警告を送りつつ、食べはじめる。うん、化学調味料が香る真っ黒スープ、カンスイの黄色もまぶしいもちもち太麺、野菜炒め、スープを吸い込んだワカメと麩。うんこれこれ、こだわってない食堂ラーメン。これですよ。
ほどなく隣で「ハイお待ち」とオヤジの声。「小盛りの塩ね。ヘッヘッへ」と相変わらずギャグを飛ばしている。夏に「山鼻の桑田佳祐」を自称して冷笑を浴びたのを忘れたか。チラリと横目で見ると、丼は普通盛りと同じだが、おお、透明な塩スープの表面から顔を出した麺がうずたかく盛り上がっているではないか。53歳(仮)女性、大丈夫なのか。
そんな私の心配をよそに、53歳(仮)女性は粛々とラーメンを食べ始めたわけだ。すると静かに押し寄せる敗北感。ああ私もまだまだだな……としおたれてラーメンをすする。
いやしかし待てよ。すでに人生折り返しを過ぎているというのに「まだまだ」って何言ってるんだ私。もう十分じゃないか。この先の短い人生、普通盛りで胸を張って生きていってもいいじゃないか。なのになんだろうこの負けた気分。隣の大盛りごときで心を乱してしまった青臭い自分。
大盛りvs大食いの戦いに参戦すらできず、その結果を見届けることもできず、モヤモヤしたまま店を出た私。そののち、そこに追い打ちをかける店に出会うとはそのときは思ってもいなかったのだった。続く。
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