157 *やっぱりパンが好き

2010年05月25日 15:16|クルマであるく

 昔むかーし、私が小学校に入る前、母方の祖母は浦河で小間物屋を営んでいた。昭和の田舎の小間物屋だから、店には金物からタワシ、調味料やお菓子まで、いろんなものが雑多に並べられていた。
 盆や正月に遊びに行くと祖母は兄と私を店へ連れて行き、好きなお菓子をひとつ選ばせてくれた。そんなとき私が決まって選ぶのは、チョコレートでもビスケットでもなく、バタークリームとドレンチェリーがのっかった菓子パンだった。
 兄と並んで掃き出し窓の縁に座って食べる甘いパンは、うっとりするほどおいしかった。足元を忙しく歩き回るアリの群れを見つけ、パンくずを落とすとアリたちが狂喜乱舞するのを飽きることなく眺めていた。
 おばあちゃんの店のパン。これが私にとってパンの原体験だ。

 パンって、なんだかシアワセな感じがしませんか。
 もちろんごはんもシアワセですよ。でもごはんはふだんのシアワセ。パンはちょっと特別なシアワセ。だってホラ、炊飯器を開けたら勝手に炊きあがっているごはんと違って、パンはお店で選んだり迷ったりする楽しみがあるじゃないですか。パン屋に入って「さあどれにしようかなー」とトングをパチパチさせていると、なんだかソワソワと浮き足立ってきませんか。
 いくつになってもパンが好き。そんな私が近ごろシアワセなお店が「アンジュ」。

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 近所なのでよく買いに行くのだが、知人が某パンコーディネーターにお勧めのパン屋を訊ねたところ、この店の名前を挙げて「札幌で一番好き」とおっしゃったという。実際、いつ行っても店の前には遠方からとおぼしきクルマが並んでいて、みなさんしこたま買い占めていかれる。ちなみに並んでいるクルマはアウディ・ベンツ・BMWなどなど、いずれも高級車揃い。セレブなマダムのお眼鏡にもかなうパンということでしょうか。
 重たい木のドアを開けると、店内を横断する1枚木の上に焼き上がったパンが並んでいて、なんだかフランスのパン屋さんみたいにオシャレ。ってフランスに行ったことないけど。
 「アンジュ」は1日の時間帯ごとに焼き上がるパンの種類が異なる。概ね午前中はクロワッサンやスコーンなど朝食向きの軽いパン、お昼あたりからタルトやデニッシュなどのスイーツ系、その後バゲットやパン・オ・セーグル、カンパーニュなどのずっしりハード系が焼き上がり、夕方までにほぼ売り切れる。
 店主はフランスでの修業経験があるそうで、どれを食べてもほんとうにおいしい。とくにハード系は滋味あふれるおいしさで、小麦粉のおいしさがしみじみよくわかる。ビーフシチューやワインによく合って、怖いほどの勢いで食べ尽くしてしまう。

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 さらに秀逸なのがクロワッサン。初めて食べたとき、あまりのおいしさに思わず「ああ」と声が出た。パクリとかじりついたとたん香ばしい表皮がハラハラと崩れ落ち、サクッと噛むと中はしっとりふんわり、上質なバターが香り立つ。
 幼いころは甘い菓子パンが大好きだった私だが、長じて甘いモノが苦手になった。今ではスイーツ系のパンにはまったく興味がないのだが、「アンジュ」のパン・オ・レザンは別物!

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 表面はサクッと、中身はしっとりもっちりとしたデニッシュ生地でカスタードクリームとレーズンが巻き込んであり、甘さは控えめ。たまにすごーく食べたくなって行くのだが、いつ行ってもあるわけではないというところが切ない。
 こんなにハイレベルなパンなのに、食べているとなぜだかいつも“おばあちゃんの店のパン”を思い出す。フランス仕込みの洗練されたパンなのに、昭和の田舎の、添加物もいっぱい入っていたであろう昔ながらの安い菓子パンを思い出し、懐かしい気持ちでいっぱいになる。でもそれはきっと、あれこれ迷って選んでパンを食べるシアワセな記憶でつながっているんだと思う。あーやっぱり私はパンが好き。

● アンジュ
● 札幌市中央区南19条西14-2-7 仲通り南向き
● 営業時間 10:00~19:00
● 定休日 日曜・祝日
http://boulangerieange.web.fc2.com/index.html

佐々木美和

佐々木美和

札幌在住のコピーライター。運転免許はもちろんゴールド(ただしタイヤ交換すらできません)。近ごろクルマとは週末のお買い物や旅先のレンタカー、助手席もしくは後部座席でライトなおつきあい。ですが、クルマのお出かけは大好きです。

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