127 *トヨタのゆくえ

2009年10月20日 15:46|クルマ聞きかじり

 えー、今回京都旅行記はちょっとお休み。なぜかというと、昨夜こんなテレビ番組を観たからです。

NHKスペシャル「自動車革命 第1回 トヨタ 新時代への苦闘」
http://www.nhk.or.jp/special/onair/091018.html

 現在トヨタが実用化に向けて開発を進めているプラグイン・ハイブリッドカー。家庭用コンセントからバッテリーに充電し、近距離は電気自動車として、長距離になるとガソリンエンジンが自動的に稼働する。つまり電気自動車とハイブリッドカーの長所を併せ持っているわけだが、その反面ハイブリッドカーに比べて電池容量が大きく、電気自動車に比べてエンジン+ハイブリッドカー用の駆動系が必要なため、コストと重量がかさむのがデメリット (このへんウィキペディアの受け売りです)。そこでトヨタはコストダウンと軽量化をはかりつつ、プラグイン・ハイブリッドカーでエコカー市場の戦いに挑もうとしている。
 ところが現在、世界では電気自動車のベンチャー企業が続々登場。中国では地方の農家が電気自動車製造に続々乗り出しているという。農家から自動車メーカーへ転身……んー、ちょっと怖いね。一方アメリカではシリコンバレーから誕生したテスラ・モーターズがグーグルをバックに擁し、2年後に500万円台の電気自動車を販売予定とか。グーグル恐るべし!
 電気自動車メーカーとしてベンチャー企業が台頭しはじめた理由のひとつは、電気自動車の構造にあるという。従来の自動車がエンジンやトランスミッションなど複雑な構造と多岐にわたる部品で成り立っていたのに対し、電気自動車の主要部分はモーターとインバータ、電池で成り立っており、比較的簡単な構造になっている。そのため、部品をアウトソーシングで調達して組み立てれば、ハイ電気自動車一丁あがり! ということらしい。
 そしてもうひとつ、ベンチャー企業には大手メーカーにありがちな “しがらみ”がないことも台頭の理由だという。トヨタをはじめとする大手自動車メーカーの場合、さまざまな部品の製造を請け負う下請け会社との間に長いお付き合いが築かれているが、新規参入のベンチャー企業にとっては安くていいものさえ作ってくれればよいわけで、「長いお付き合いですし今後ともまあひとつ……」なんてニッポン的しがらみは無縁にビジネスを展開できる。
 さらに、電気自動車は従来の自動車と違って火気の心配がないので、プラスチックなどの新素材を取り入れてどんどん軽量化することができる。そのため、従来の自動車業界ではありえなかった産業との新たな関係構築にも軽やかに入っていけるのも、ベンチャー企業ならではのメリットというわけだ。
 こうした潮流の中、トヨタは自動車メーカーが部品組み立て会社になってしまうことを危惧し、プラグイン・ハイブリッドカーを次世代エコカー市場の主軸と位置づけて戦いに挑もうとしている。だからこそ、電気自動車に対抗できるコストダウンと軽量化が求められるわけだ。
 番組中、ある自動車部品メーカーが登場した。この会社は40年以上の間トヨタに冷却水ポンプを提供してきたのに、ある日突然トヨタから部品開発の他社競合を命じられる。プラグイン・ハイブリッドカーをエコカー市場に送り出すために、部品そのもののコストダウン・軽量化を迫られたのだ。それまで不変と信じていたトヨタとの関係が揺らぎはじめた。競合に負ければ会社の存続すら危うい。社員は何度も会議を開き、頭を抱え、東奔西走する。そして
・ 重量の大半は部品の磁石のさび防止に使われているプラスチックカバーだ

・ ならばさびない磁石を使えばカバーはいらなくなる
 ↓
・ 軽量化もコストダウンも実現できる!
という結論に達する。「さびない磁石」という一見無謀なニーズ。これに応える会社を全国に尋ねまわり、ついに広島県で見つけるのだ。
 この「さびない磁石」を手にしたときの社員の顔がよかった。モノづくりに携わる人間としての誇りと威厳、そして未来への希望に満ちた、じつにいい顔をしていた。100年前にこの世に初めて自動車を生み出した人々も、高度経済成長のただ中でニッポンの自動車づくりに携わった人々も、きっと同じ顔をしていたんじゃないだろうか。
 トヨタをはじめとする大手自動車メーカーは、いまほんとうに苦しい時代だ。いや、日本中の誰もが苦しい時代だ。戦後日本もそうだった。でも、ニッポンのモノづくりの技と心は戦後の日本復興の大きな礎となり、わけても自動車産業は高度経済成長の輝かしい象徴となった。 だからこそいま、この時代に、ふたたび日本のモノづくりの精神が大きな意義を持ちはじめているんじゃないだろうか。「もっと速くてカッコいいクルマ」から「もっと地球にやさしく低コストなクルマ」へ、ニーズの視点は変わったけれど、モノづくりの精神はきっと変わらない。世界中が諸手をあげて電気自動車に向かっていく中でプラグイン・ハイブリッドカーに信念を持って立ち向かう会社がある限り、たったひとつの部品のために人生を賭けるサラリーマンがいる限り、日本の未来はまだまだ捨てたもんじゃないかも、と思えてくる。
 かつて建設会社の広告で「地図に残る仕事」というコピーがあったけれど、自動車産業はまさに「歴史に残る仕事」にがっぷり四つで取り組んでいるのだ。広告などという口にのぼればふわりふわりと消えていく浮き草稼業にしてみると、なんとうらやましい仕事か。日本の自動車産業のみなさん、あなたたちはほんとうにカッコいい! トヨタのゆくえを、クルマの未来を、希望をもって見守りたい。

佐々木美和

佐々木美和

札幌在住のコピーライター。運転免許はもちろんゴールド(ただしタイヤ交換すらできません)。近ごろクルマとは週末のお買い物や旅先のレンタカー、助手席もしくは後部座席でライトなおつきあい。ですが、クルマのお出かけは大好きです。

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