朝3:30、ケータイの目覚ましが鳴った。
「…………」
いつもならここからさらに5分、再度ケータイが鳴るまでの二度寝を貪るのだが、この日はそういうわけにもいかず、のろのろと布団を這い出た。
カーテンを開けるとくろぐろとした空、裾のほうがほんのりと白んできている。夏の朝が早くも明けようとしていた。
日頃2:00就寝のからだは「翌朝3:30起床だからねッ!」と脳から命令されてもなかなか事態を飲み込めず、前夜ようやくとろとろと眠りに就いたのが深夜0:30だった。寝不足のせいか、からだがぎしぎしする。
身支度を整え、予約したタクシーに乗り込んだのは4:30。空はすっかり明るくなっていた。
これから集合場所に向かう。目的地、上士幌町のとある牧場。目標到着時間、9:00。そうです、これからお仕事です。1泊2日の取材旅行です。
集合場所に待っていたのはカメラマン氏のスタジオ社用車、年季の入った日産ウイングロード。私と女性デザイナー嬢が乗り込み、36号線へ。途中でプロデューサー氏とディレクター氏を拾い、大人5人がギッシリ詰まったウイングロードは東をめざす。映画『プリシラ』ならここでヴィレッジ・ピープルの「ゴー・ウエスト」が高らかに鳴り響くところだが、いかんせん狭い車内で全員寝不足。ちょっとテンション低めなのだった。
道中眠気覚ましにつれづれとしゃべっていたら、不意にプロデューサー氏が言った。
「ああそうだ、みんな免許持ってるよね。5人で適当に運転を交替していこうね」
えっ! 5人ってことは私も頭数に入ってるんですか!
「だって免許持ってるでしょ、ササキさん」
い、いやー、持ってますけどね。大人5人と撮影機材をしこたま乗せたウイングロードで峠を越える自信はないな私……いや、でもそうも言っていられない。よしわかった! みんな、死出の旅になるけどよろしく!
「……ササキさんに順番が回る前に札幌に帰ろうね」
帯広に入ってしばらく走ったころ、ディレクター氏がふと、という感じで呟いた。
「そういえばこのクルマ、ナビついてないんだね」
「そうなんですよ。牧場ったって十勝は似たような風景が続くから、迷わずにたどり着けるか心配なんですよ。あ、そこに地図ありますから、みなさんナビよろしく」
とカメラマン氏。そう言う間にあたりの景色は一面緑の牧場と畑が延々と広がりはじめた。はたと気づくとまんまと道に迷ってしまった私たち。全員で地図をためつすがめつ、車外に出て案内看板を探し、もと来た道を引き返し……まあ私は地図を読むのもおぼつかないので大きな口は叩けないが、ふだんナビに頼りきっていると地図を読む感覚も鈍ってしまうのかもしれませんね。しかし世の男性のみなさん、女性としては迷いのない運転に安心して身をまかせたいもの。ナビのついていないクルマでデートの際には、どうぞ前日までにグーグルでルートを頭に叩き込んでおいていただきたい。ゆめゆめドライブ途中に「えーと北がこっちでしょ」と地図をぐるぐる回したりして、彼女を不安に陥れたりなさいませんよう。
ともあれ男性陣の奮闘の末、進行方向を見いだして上士幌町へ。これまた同じような牧場の風景が広がる中、ようやく目的地「十勝しんむら牧場」の看板を発見した。ま、牧場が広大すぎて、看板から母屋までがまた長かったんですけどね。駐車場にクルマを止めて全員からだを伸ばしていると、
「キャ~~~ッ!」
と悲鳴が。声の主はカメラマン・ディレクター・プロデューサーの3人。なんだその女の子みたいな甲高い悲鳴は?
「トリがっ、トリがっ」
「鳥が死んでる~っ!」
聞くと、高速道路を運転中にぶつかった鳥がフロントバンパーの開口部に挟まってしまったのだそうな。
「うわぁオレダメ」
「オレもダメなんスよこういうの」
「かわいそうだけど怖い~」
バンパーを覗き込んでは身をよじる男たち。あーもう女々しい奴らめ。私が取ってやるわ! とフロントに回りかけたとき、一歩先に行動に出たのが牧場オーナーの奥様だった。
「なんだ、こんなもん」
とひとこと、ヒョイと手で鳥の死骸をつかみ出した。
茫然と佇む男たちを残して、奥様は鳥の死骸をブラブラさせながら、悠然とゴミ捨て場に向かうのだった。
男たちよ! ロングドライブに些細なトラブルはつきもの。どうか鳥の死骸ごときでソプラノの悲鳴なんぞあげないでいただきたい。この先「走行中に鳥にぶつかりそうになってハンドルを切り損ねて大惨事」なんてことになったらシャレにならないんだから、ほんとにもう。
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