104 *クルマでは行けない店

2009年04月27日 11:34|クルマ食べあるき

 食べ歩き話が続いています。まあいいか。
 先週は「クルマじゃないと行きづらいうどん屋」でしたが、きょうは「クルマでは絶対に行けないそば屋」のお話です。反則? まあたまにはいいですよねッ!(無理矢理)

 クルマでは絶対に行けないそば屋、それは駅の立ち食いそば。うどんにしろそばにしろ、こだわり系のお店はえてして郊外までクルマを走らせないとありつけないケースが多いが、立ち食いそばをクルマでわざわざ食べに行ったという話は聞いたことがない。立ち食いそばは座って待つ時間も惜しいほど忙しいとき、サッとすすってパッと去るもの。ゆえに駅やビル地下などにあることが多いわけだが、この立ち食いそばというもの、べつに食べたくもないときに限っていいニオイで誘惑してくるのですなあ。仕事の都合でしばしばJRを利用するのだが、朝10:00過ぎとか夕方17:00前とか中途半端な時間帯に列車に乗り込むときに限って激しく鼻を刺激するツユのニオイ。決して上等でもなんでもなく、おおかたの味の予想はつくのに、あのあまじょっぱいニオイを嗅ぐと胃袋が反応する。ああいつか一度は駅そばを食べてみたい。オジサンたちに混じって背中を丸めてイジイジとそばをすすり、コソコソと立ち去ってみたい。そう思い続けて幾星霜、ついに願いがかなう日がやってきたのであります。
 その日は朝から小樽でロケがあり、取材に同行する予定になっていた。モデルやヘアメイク、撮影部隊は早朝から現地入りして準備をしているのだが、その間はコピーライターの出番がないため、ディレクターとともにやや遅れてJRで追いかけることになったのだ。おお、これは朝の駅そばを食べるチャンスだ! 小躍りしながら当日の朝、そばを食べる時間を計算して早めに家を出た私なのでした。

 9:13発小樽行き快速エアポート83号の乗車ホーム5番線へ。ありましたありました、そばスタンド。

 

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 イソイソと駆け寄り、かけそば¥290を注文。厨房(というのだろうか)をひとり守るおばちゃんが「ハーイ」と応えながら1食ずつ袋に入ったゆでそばを開封し、湯に漬かった一人分のザルに投入した。どうでもいいけど立ち食いそば屋のおばちゃんはえてしてお化粧が濃く、よく見るとなかなか色っぽい人も少なくない気がする。なぜだろう。

 

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 そんなことを考えている間にもお客がどんどんやってくる。ブリーフケースを足の間にはさみながら品書きも見ないで「月見」とつぶやき、流れるような動作でコップに水を注ぐサラリーマン(おぬし、立ち食いそばの達人だな)。じっくりと品書きを眺めたあと「きょうはかきあげそばにする」と、まるでおかあさんにごはんの催促をするように明るく申告する職業不詳の若者(「きょうは」ってことは常連か)。3方がカウンターになったそばスタンドにはあっという間におじさんが鈴なり、女子は私ひとり。タンチョウが群がる湿原のように、立ち食いそばはおじさんのサンクチュアリなのか。
 ほどなくかけそば到着。待ち時間1分半といったところでしょうか。 

 

 

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 小ぶりなプラスチックのどんぶりを引き寄せ、一味をポイポイ。割り箸をペキリと割って、いただきまーす。
 ん? 意外と麺がツルツルしていてコシがある。ゆでそばを温めるんだからグッタリと弱々しい麺にちがいない、と思っていたのに、予想よりもちゃんとしているじゃないか。ではツユはどうだ。ズルズル。
 ん? 意外とあっさりしていて普通のツユだ。けっこう離れた場所に立っていても力強くニオってくる、お世辞にも上品とはいえない濃いいツユを期待していたのに、予想よりもちゃんとしているじゃないか。
 立ち食いそばというものは「早い・安い」の期待にはきっぱり応えるけれど「うまい」の期待は無言でスルー、というものだと思っていた。それがいまどきの若者風に言うならば「フツーにおいしい」。予想よりもおいしかったためにむしろ落胆してしまうという、なんだかヘンな事態に戸惑う私なのでした。
 周りで「なんの期待もしない」という風に目を伏せてズルズルとそばをすする男たちを見ると、いくつかのスタイルがあることがわかった。

 

1 どんぶりをカウンターに置いたまま、かがみこむように背中を丸めて食べるいじけ型


2 どんぶりをカウンターに置いたまま、ちょっとお行儀悪く体を斜に構えてどんぶりを左腕で抱え込むようにして食べる不良型


3 背筋をしゃんと伸ばしてどんぶりを手にもって食べる紳士型

 

 どれがツウに見えるだろうか、と思案しながら3を採用したところ、なんだか身も心もオジサンになった気がしてズズーッ! ズビズビーッ! と盛大にすすりこみ、男らしく完食し、小樽行きの列車に乗り込んだ。

 

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 それにしても中途半端においしいのはなんだか解せない。立ち食いそばには立ち食いそばなりに守るべき「期待されない」矜持があってしかるべきではないか? いや、もしかしてあれは小樽方面行き5番ホームの味で、別のホームのそばは違う味なのではないだろうか? 東京・山手線の駅そばは各駅それぞれに味が異なるというから、ありえない話ではないのではなかろうか?
 そんなことを同行したディレクターと話していたところ、彼は別の日にまたJRを利用する機会があったため別のホームのそばにトライ。「明らかに5番ホームとは味が違った。じつにうまかった」と報告してくれたのだった。もちろんここで言う「うまかった」とは「立ち食いそば本来の矜持を保った味だった」という意味だ。うわー、いいなあ。じつにうらやましい。

 ホームの違いなのか日による違いなのかはわからないけれど、あの小さなそばスタンドには「季節ごとに粉や水の配合を変えて同じ味を維持しています」といったこだわり系そば屋にはないナニモノかが潜んでいるのかもしれない。立ち食いそばはそば界の最下層に位置するものではあるけれど、最下層ゆえのおいしさ、というものもある。紅ショウガ入りソース焼きそばにはフカヒレラーメンと同列に語れないおいしさがあるように、だ。
 「クルマでなければ行けないそば屋」もいいけれど、「クルマでは絶対に行けないそば屋」もたまにはいいものです。どうしてもクルマで行きたい方は、駅近くのパーキングをご利用の上、乗車券を購入して改札から入場してくださいね。

 

佐々木美和

佐々木美和

札幌在住のコピーライター。運転免許はもちろんゴールド(ただしタイヤ交換すらできません)。近ごろクルマとは週末のお買い物や旅先のレンタカー、助手席もしくは後部座席でライトなおつきあい。ですが、クルマのお出かけは大好きです。

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