前回は「男とクルマのいい関係」と勝手に思っている映画についてのお話でしたが、ここはひとつ男女平等に、「女とクルマのいい関係」も取り上げてみましょう。
クルマを運転すると人格が変わる人がいますね。ふだん楚々とした女性がハンドルを握ると前方のクルマに向かって「トロトロ走ってるんじゃないよボケ」と毒づいたり、ふだん男らしい言動が多く「飛ばしそうですね」と言われる私が思わず「いや~ん車線変更できない~」と口走り、「気持ち悪い」と言われてしまったり(いずれも実話)。ま、クルマが人を変えるというのはありえることだ。
で、クルマとともに走り続けるうちに変貌を遂げていく女たちを描いた映画が『テルマ&ルイーズ』(91年)。私はこの映画が大好きで、DVDというモノがなかった時代にケーブルテレビからビデオに録画し、何度も何度も観たものだった。
舞台はアメリカ。夫に束縛される専業主婦のテルマと、独身生活を謳歌するウェトレスのルイーズ。ふたりは退屈な日常をしばし忘れるべくドライブ旅行へ出かけるが、途中立ち寄ったバーで悪酔いしたテルマがレイプされそうになり、ルイーズは相手の男を射殺してしまう。
あまりにも有名な女ふたりの逃避行ロードムービーは、しばしば「男たちの抑圧から解放された女たち」として語られる。確かに、この映画において彼女たちの運命はあまりにも男に支配されている。テルマを家政婦同然に扱う夫から逃れたテルマはレイプの危機にさらされ、それを助けたルイーズもまたレイプされた過去を持つ。おまけに逃亡資金も詐欺師の男に持ち逃げされ、気がつけば殺人・強盗・詐欺・器物損壊の容疑で全米指名手配の身になってしまうという、ここまでくると「アンタたち男運悪すぎ」と言いたくなるほどのツキのなさ。なのにラストシーンは泣きながらスカッとさわやかな心持ちになれてしまう。
男に服従を強いられ、トラブルに遭ってもただ取り乱すことしかできなかった
テルマは、次第に「選ぶ」「決める」「行動する」という意志を持った女性としてたくましく歩き始める。一方、奔放で自立した女性に見えてじつは男を心の底で信用していなかったルイーズは、何も訊かずに逃避行を助けてくれる恋人との電話を通じてほんとうの愛と絆を知り、ときに素直に涙を見せるかわいらしい女性になっていく。
彼女たちの旅は逃避行から始まり、“自分”を追いかける旅へと鮮やかに変貌を遂げていく。そのプロセスは「男たちの抑圧からの解放」というよりも、「女たちの自由への疾走」というのがふさわしい。
テルマ&ルイーズを永遠の自由へと連れて行ったクルマは、’66年型のサンダーバード。60年代アメリカの宇宙への夢をかきたてたアポロ計画を意識した、ロケットやジェット旅客機のディテールをイメージしたデザインだったという。なるほど、テルマ&ルイーズの旅にぴったりの1台ではないですか。さすがリドリー・スコット、なんともセンスがいい。
ところで『テルマ&ルイーズ』は、当時売れない役者だったブラッド・ピットがチョイ役で出演していたことでもよく知られている。その役のオーディションに5回も参加して結局落選したのが、前回のコラムにご登場いただいたジョージ・クルーニーだったのだそうな。へぇー。
![Doreca[ドレカ] 車選びの総合メディア](http://kuruma.hokkaido-np.co.jp/common_img/header/header_logo.gif)









