退院して1ヵ月。おかげさまで経過は順調でございます。
入院前、仕事で少々煮詰まっていた感があったのですが、どういうわけか退院してからというもの新規仕事が毎日のように押し寄せて、もう飽和状態。なんでしょうね。病気といっしょに何か憑き物でも落ちたのでしょうか。でもまあ忙しいのはありがたいことで……といいながら原稿が遅れてごめんなさい。
ところで入院中は暇を持て余し、じつによく本を読みました。その数ざっと一般書籍16冊、雑誌4冊ほど。私はふだん仕事で書評を書くためを除いては、いわゆる娯楽小説はほとんど読まないのですが、気が滅入りがちな入院中はむしろそんな軽い読み物の差し入れがじつにありがたかったものでした。
さて、時は秋、読書の秋というわけで、今週はその中から「ドレカ」をご覧のみなさま向きの、クルマが印象的だった書物をご紹介。
『あなたと、どこかへ。』(文藝春秋刊)1,100円
3年ほど前に日産ティアナのスペシャルサイトで公開されていた、人気作家の書き下ろし短編小説のアンソロジー。もしかしてサイトで読んだ方も多いかもしれないですね。
書き手は吉田修一・角田光代・石田衣良・甘糟りり子・林望・谷村志穂・片岡義男・川上弘美という錚々たる面々。それにしてもこの面々を見ると、クルマに縁がありそうなのは片岡義男くらいなもの。角田光代や川上弘美なんて、その作風から想像するに、ふだんの生活でクルマを運転するようには見えないし。でもね、みなさん頑張って「クルマ小説」を仕上げていらっしゃる。だから、毎週このコラムを書くだけでうんうん唸り、「ドレカ」担当スタッフの方々から「“晴れ、ときどき、クルマ”といいながらクルマが出てこないですよねぇ」と痛いところを突かれている私なんぞは大いに共感できたのですな。
中でも川上弘美の「夜のドライブ」という短篇は秀逸。夜のドライブ、なんて聞くと主人公は恋人どうしか、恋人に振られた女性か、なんてイメージしがちだが、この作品で夜のドライブへ繰り出すのは40半ばの独身娘と夫に先立たれた母。凡庸なイメージを軽く裏切る設定で、しかもクルマがじつに効果的に使われている。そうか、クルマの中でふたりきりになるとなんだか素直になれるのは恋人どうしだけじゃなく、母娘だってそうなんだなあ、と納得しつつ、母と娘のちょっと切ないやりとりに涙腺がちょっとゆるんでしまう一作。
最近よくテレビで流れているホンダ・オデッセイのCMで「いいクルマが好きだ。男ですから」というコピーがある。久々にいいコピーだなあ、と感心しました。思うに「クルマ」を買うということは、クルマというハードそのものというよりむしろ「クルマのある人生」を買うことなのだろうと思う。その意味においてこのコピーは、カッコよくありたい男たちのライフスタイルが凝縮されていると思うのだ。
そして、『あなたと、どこかへ。』で8人の作家が描いた「クルマのある人生」もまた、どんな饒舌な営業トークよりも雄弁にクルマの魅力を語ってくれる、なんとも粋な広告だった。ああ、なんだか久々にハンドルを握りたくなってきました。
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