前回のコラムで自動車学校の思い出をちらっと掘り起こしてみたので、つらつらと当時のことを思い出してみる。
晴れて免許を取得したからには、次の目標は当然クルマ。予算と技術の都合上中古車で十分と思っていたので、今だったらもちろん道内随一超優良超安心極上中古車検索サイト「ドレカ」で即検索するのですが(ごますりすりすり)、当時の私にとって情報源は周りの口コミと新聞の折込チラシのみ。周りの人々は「▲▲は小回りが利いて運転しやすいから初心者にオススメ」「◇◇は駆動力はイマイチだけど燃費はいい」「○○は☆※◎が付いていて▽♪×■が◇※◆で」云々と助言をしてくれるけれど、むー、ありがたいけどゴメン、わかんない。折込チラシを眺めていてもわかんない。さてどうしよう。シロウトながらぼんやりと抱いていたイメージは
●いかにも免許取りたてっぽく見えず
●道ゆく人を「おっ」と思わせるオシャレデザインで
●一見運転が上手そうにハッタリを利かせられるクルマ
だった。その観点から候補に挙がっていたのが日産の「フィガロ」または「パオ」。ね、このヒトがいかに見た目優先・形から入る人間かおわかりでしょう。身の程知らずめ。
とはいえ、そうタイミングよくこれらの中古車が出回っているわけもなく、でも早くクルマを買わないと通勤できん! オシャレじゃなくてもいいからさっさと買わねば! と焦った私はある日曜日、フラフラと自転車に乗って近隣の中古車屋さんへ行った。そして「ま、これでもいいか」と思うクルマに出会ったのだった。レンタカーとして1年ほど使用されていたとのことで、走行距離もさほど多くなく、お値段も予算の範囲内。「じゃコレください」とサンマでも買うようにあっさり購入したそのクルマはホンダの「シビック フェリオ」。お色はネイビー。さんざん迷ったあげくフツーの選択におさまった感があるが、当時ジョディ・フォスターがイメージキャラクターを務めていたCMの影響がなかったとはいえないというにやぶさかではない。てへ。
それからフェリオちゃんは毎日の通勤からお買い物、札幌の実家への帰省にドライブ旅行まで、じつによく働いてくれた。縦列駐車に失敗して父親のクルマにぶつけて怒られたときも、真冬の十勝岳温泉で雪山に突っ込んで動けなくなったときも、けなげに立ち直ってくれた。野生のサルのような生徒たちが「センセー、バス停まで送って!!」と5人も6人も乗り込んできても、大ざっぱな持ち主によってスコップでがしがしと雪下ろしをされても、擦り傷に油性マジックを塗られてごまかされても、じっと耐え忍んでくれた。
やがて私は札幌に戻り、縁あって転職。職場が都心部でクルマを運転する機会がめっきり減ったため、フェリオちゃんは友人に二束三文で譲ってしまった。そして数年後、この友人が遭遇した事故により、フェリオちゃんはあえなく廃車の運命を辿ったのであった。私とはわずか4年ほどの付き合いだったけれど、思い返してみればほんとうに運転しやすくていいクルマだったと思う。
思い出すうちに懐かしくなり、写真を探してみたのだけれど1枚もなかった。なぜならクルマを買った当時、私の人生にはたくさんの悲しみが押し寄せていて、心身ともにどん底だったから。初めて買ったクルマの前で記念写真を撮ることも思いつかなかったくらい深い深い闇に沈んでいたから。そんなとき、あてもないドライブに出かけたりするうちに少し遠くを見られるようになり、わざと知らない道に迷い込んでみるうちに遠回りなんて大したことじゃないと思えるようになり、少しずつ人生の迷い道から抜け出していったような気がする。そういう意味でも、私の人生にクルマがやってきたことの意味は大きかったと思う。おかげで今は心身ともにずうずうしいほど元気になりました。ありがとう、フェリオちゃん。
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